日本におけるアルコールの消費量は、全体的な量が減少しており、飲酒習慣がある人の割合も特に若い世代で減少しています。2020年以降の新型コロナウイルスの影響により、人々は飲み会などの機会が少なくなり、アルコール摂取が必要ないと感じるようになった方もいるようです。しかし一方で、行動制限による心理的ストレスや孤独感、将来への不安などからアルコール摂取量が増えたり、在宅勤務が増えたことで昼間からアルコールを摂取することが増えたりするなどの声も聞かれます。行動制限が緩和されると、出社するようになりアルコール摂取量が減ったという声もある一方で、再び飲み会が行われるようになり、過剰摂取を心配する人もいるようです。アルコールの摂取量や習慣は個人によって異なりますが、たくさん飲む人と飲まない人との間で二分化が進んでいると言えるかもしれません。
アルコール摂取が増え不安を感じている人のための相談先として、アルコール摂取量を減らすことを目指した「減酒外来」が存在します。減酒外来は、2017年に全国で初めて久里浜医療センターに設立されました。その後、「減酒外来」「減酒支援外来」「アルコール低減外来」などといった名称で、同様の外来が全国の医療機関で設けられています。
減酒外来は、主に2つの目的を持って設けられています。第一の目的は、アルコール依存症を抱える患者が治療を受けることを促すことです。多くの人が、アルコール問題を抱えていても、受診をためらう理由として、「自分がお酒をやめるように命じられるのではないか」「説教されるのではないか」という不安を抱えています。アルコール依存症の治療は、一般的にはお酒を完全に断つことが基本ですが、減酒を目指すことで、受診の敷居が下がり、アルコール依存症の患者が治療を受けやすくなることが期待されています。
もうひとつの役割は、アルコールに関する悩みや問題を相談できる窓口としての側面です。かつては、アルコール関連の問題に対処する際には、アルコール依存症の治療が主眼とされてきました。しかし、200を超える病気や怪我がアルコールと関連して報告されており※2、最近ではアルコールがもたらす損害を少しでも軽減するため、アルコール依存症と診断されていない人にも幅広い支援が提供されるようになっています。実際、アルコール依存症の診断を受けていないにもかかわらず、「記憶を失うほど飲みすぎてしまう」「家族との問題が生じてしまう」といった悩みを抱える場合や、「飲酒をやめるつもりはないが、飲み方を変えたい」と考える人々も存在します。こうした悩みも、減酒外来では気軽に相談することが可能です。