【家庭内での転倒・転落は意外とある】
家庭の中は安全だと誰も思っていますが、実際には年間1万人以上の方が家庭内の事故により亡くなっています。これは交通事故の死者数よりもはるかに多い数字です。
家庭内でよく起こる事故の中には、階段からの転落やお風呂での溺死などがあります。特に骨折などの重傷を負いやすいのは、階段からの転落、床での滑り、浴室や玄関の段差での転倒です。
一般的には、お年寄りに多いと思われがちですが、実際には働き盛りの世代でも多くの事故が発生しています。たとえば、階段事故の件数では、65歳以上の方が約15%を占めますが、30~49歳では14.3%、50~64歳でも12.4%と、大きな差はありません。
中高年になると、少しずつ筋肉が衰え、骨密度も低下してきます。そのため、わずかな転倒や転落でも骨折やひどい捻挫を起こすケースが増えるので、日常生活の中で常に十分な注意が必要です。
家庭内で起こる転倒や転落の事故は、本来安全であるべき場所で起こるものですが、なぜ起こるのでしょうか。それぞれの場所ごとに、事故の原因と対策を知っておくことは大事です。
【階段での事故は危険】
階段での事故について考えると、普通は一戸建ての階段を思い浮かべますが、最近ではエレベータのない低層マンションの階段で高齢者が転落するような事故も増えています。
階段での事故は、重症なけがにつながりやすく、骨折や足の腱や筋肉の損傷、深刻な捻挫など、普段の生活に大きな影響を及ぼすことが多いため、特に注意が必要です。
階段からの転落は、以下のような状況でよく起こります。
例えば、玄関のチャイムが鳴り急いで2階から降りたり、スリッパや靴下が滑ってしまったり、暗くて段差が見えにくかったり、ズボンの裾を踏んでしまったり、ペットが足にからまったり、物を持っていて足元が見えにくくなったり、滑り止めにつまずいたりします。
こうした事例から、階段を利用する際には以下の点に注意するよう心掛けましょう。
– 階段の上り下りはゆっくり意識的に行うことを心掛けましょう。急ぐ必要はありません。
– スリッパやサンダル(特に室外)ではなく、滑りやすい靴下での上り下りは避けましょう。
– 暗い階段には必ず照明を付けましょう。
– 裾の長いズボン(特にパジャマ)は避けましょう。
– 犬や猫などのペットと一緒に階段で下りるのは避けましょう(先に行かせましょう)。
– 物を持っている時は、一段ずつ足先を確認しながら上り下りしましょう。
– 滑り止めを使用する場合は、つまずきにくいものを選びましょう。
階段の壁には手すりを取り付けることが重要です。ただし、後から取り付ける場合、壁の裏側に十分な支持をするための柱や補強材がなければ、手すりは安定せず、つかんだ時に取れてしまうことがあります。安全を確保するためには、信頼できる業者に相談して、しっかりとした手すりを取り付けるようにしましょう。それにより、階段を上り下りする際にしっかりとした支えが確保され、事故を防ぐことができます。
【リビングでの転倒も多い】
リビング(居間)での事故は予想外かもしれませんが、最近のリビングは滑りやすいフローリングが多くなっています。急いでいる時など、ちょっとした力で靴下やタイツがツルッと滑り、手をついて骨折したり、家具に頭をぶつけたりする事例も増えています。
もし床が滑りやすい場合は、滑り止めのワックスを塗ることがおすすめです。リビングの一部にカーペットやじゅうたんが敷いてある場合、その端でつまずいて転倒することもあります。安全のためには、カーペットをできるだけ床一面に敷くことが重要です。部分的に敷く場合は、端がめくれにくいタイプを選ぶようにしましょう(毛足が長いものや、柔らかくシワができやすいタイプなどは避けましょう)。
さらに、電化製品のコードと脚が絡まって転倒することもよくあります。コード類は極力まとめて、壁際に沿わせるようにしましょう。たとえば、人々がよく通る場所にコードがある場合は、テープなどで床に固定することが重要です。
また、和室を居間として使用している場合、畳の上に新聞や雑誌などを広げたままにしていると、滑ることがあります。途中まで読んだ新聞や雑誌は放置せず、常に棚やラックなどに片付ける習慣を身につけることも非常に重要です。
【浴室での注意】
浴室は、事故が多く起こる場所の一つです。特に注意が必要なのは、出入り口の段差や浴槽のふちでつまずくことです。
入浴時には、寒い場所で裸になったり、熱いお湯に浸かったりするため、血圧が大きく変化します。その影響で体がふらつき、予期せぬ転倒につながることがあります。
ほとんどの浴室は、一段低くなっています。出入りの際には、必ずドアの枠などに手をかけて体を支える習慣を身につけましょう。できれば、浴室の出入り口の壁や柱に手すりを取り付けると、転倒の際に支えになります。手すりの位置は、実際に出入りしてみて、どの位置が便利かを確認することが重要です。
浴槽に入ったり出たりする際、時折足が浴槽の縁に引っかかって転倒するケースが少なくありません。また、浴槽内で立ち上がる際に滑ってしまうこともあります。こうした事故では、溺れてしまうこともあるため、日々注意を怠らないようにしましょう。
もし手すりを浴槽の周りに取り付ける場合は、実際に手をかけて使いやすい位置を確認することが重要です。浴室の壁には裏側に支えがないこともあるため、手すりを取り付けることができない場合もあります。そんな場合には、浴槽自体に取り付けられるタイプの手すりを考慮してみてください。
【玄関の段差も要注意】
玄関の上がりかまちは、転倒しやすい場所です。特に段差が大きいと、靴を履く時につまずいて転ぶことがあります。また、ドアなどにぶつかって怪我をすることもあります。だから、段差が大きい場合は、たたきの上に踏み台を置くことをおすすめします。頑丈なすのこを使って踏み台として利用する方法もあります。
さらに安全性を高めるために、壁に手すりを取り付けることもおすすめです。近年は置くタイプの手すりもありますが、しっかりした構造の手すりを選ぶことが重要です。特にマンションなどの玄関では、段差がほとんどないこともあります。しかし、高齢者にとっては靴の脱ぎ履きが困難になるため、小型の椅子を置く人も増えています。その場合は、椅子の脚にゴムを取り付けて滑らないようにすることが大切です。
また、一部の家では玄関の上がりかまちに小さなマットを置いていますが、実はマットにつまずいたり、滑って転んでしまうことがありますので、避けるべきです。
最近では、玄関の外の段差をなくすためにバリアフリー工事を行うケースも増えています。ただし、工事をする際は滑りやすいタイルなどの素材は避けるべきです。雨の日などには特に滑りやすくなり、若い人でも転倒の危険があるからです。ですので、素材の選択には注意が必要です。
【足腰を鍛えて予防を】
椅子から立ち上がる際に、無意識に「ヨイショ」と声を出している場合、それは足腰の衰えが始まっている合図です。椅子の肘掛けに手を置いたり、テーブルに手をつくことも、同じように足腰の衰えを示しています。
もし、このような傾向が見られる場合は、足腰が弱くなり、転倒や転落のリスクが高くなっていることを意識するべきです。
転倒予防には、足腰の筋肉を鍛えることが最も効果的です。さまざまな種類の運動方法がありますが、誰でも簡単にできるのは、浅いスクワットです。
まず、肩幅程度に足を開き、軽く膝を曲げ、その姿勢を少し保った後、膝を伸ばします。膝を深く曲げるほど、また姿勢を保つ時間を長くするほど、運動はよりハードになります。最初は、軽く膝を曲げ伸ばすだけでもかまいません。年齢によりますが、50~100回を目安に続けましょう。ただし、腰痛や膝の痛みがある場合は、医師に相談してから始めてください。
裸足のままで、床(板床)に立ち、足の指でしっかりと床を掴むようにして、ゆっくりと前進してみましょう。この運動はかなり負荷のかかるものであり、やりすぎると足がつる可能性もあるため、最初は30〜50cm程度に抑えましょう。
高齢者の場合は、無理をせずに椅子に座った姿勢で、つま先を少し上げ、足の指を広げたり縮めたりする運動を試してみましょう。つま先の血行が改善されることで、感覚の低下を防ぐだけでなく、足全体の血液循環も良くなります。