年をとるにつれて、人々は聞こえにくくなることがあります。この状態は「加齢性難聴」と呼ばれています。自分自身が自覚する前に、自分の年配の家族の耳が遠くなっていることに気づくこともあります。とうぜん、このことは心配です。なぜなら、難聴は認知症とも関係しているからです。自分の家族や将来の自分のために、加齢に伴う聴力の変化とその対策について詳しく理解しておくことが大切です。
【認知症のリスク、聴力の低下】
一般的に言えば、加齢による聴力の低下は40~50代で始まることが多いです。この現象では、高い周波数の音を聞き取りにくくなり、次第に広い音域で聞き取りにくくなります。例えば、モスキート音のような高音域の音は、子供や若者にしか聞こえないと言われていますが、高音域の音は通常の言葉の周波数とは異なるため、聞こえないと自覚することはありません。多くの人は70~80代になって、聴力がほとんどの音域で低下して初めて、自分の聴こえにくさを自覚するようです。
「加齢性難聴」とは、加齢以外の原因がない難聴のことを指し、次の3つの要素で特徴付けられます。
1 音が小さく聞こえる
2 音が歪んで聞こえる
3 音は聞こえても、何を言っているのか理解できない
このうち、1と2は、内耳(蝸牛)にある音を感じる細胞(有毛細胞)が加齢によって壊れることによって起こります。3は、脳の老化による現象です。つまり、加齢性難聴は、耳と脳の老化が組み合わさって発生するのです。
有毛細胞が傷つくと、多くの場合、耳鳴りを伴うことがあります。実際、加齢性難聴の初期症状として耳鳴りが現れることもありますので、もし持続的な耳鳴りが気になる場合は、耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。
聞こえが悪くなると、生活に様々な影響が出てきます。相手の言葉を何度も聞き直す必要が出てくると、コミュニケーションが難しくなり、会話の機会も減っていきます。その結果、自信を失ったり、重度の場合は孤立したりうつ状態に陥ることもあります。そして、言葉だけでなく環境音の影響も重要です。たとえば、後ろから車が接近してくる音を察知できずに驚いて転倒してしまうなど、生活環境におけるリスクも増えます。
さまざまな音情報が脳に届くことは、脳の機能にとって重要です。会話の頻度や新しい環境に触れる機会が減ると、耳からの情報量が減るため、脳の老化を引き起こす可能性があります。実際に、難聴は認知症のリスク要因として知られています。お耳からの情報が脳全体の活性化に貢献しているということを、ぜひ知っておいてください。
【加齢性難聴に早く気づく】
耳鼻咽喉科で加齢性難聴の疑いがある場合、いくつかの周波数の音をヘッドフォンから流し、それが聞こえたらボタンを押す「聴力検査」や、どの音量で言葉を正しく認識できるかを調べる「語音検査」などが行われます。最近では、難聴がある場合は認知症の検査も同時に行うことがあります。
一般的な70〜80代が自覚するよりも、はるかに早い時期から難聴が見られる場合、加齢性難聴以外の病気が疑われます。たとえば、若い時に発症する遺伝性難聴である「若年発症型両側性感音難聴」という疾患があります。これは、遺伝子の変異によって10〜30代に発症し、一般的な人よりも20〜30年も早く聞こえにくくなるタイプの難聴です。以前は加齢性難聴の一部とされていましたが、現在では遺伝子検査の進歩により、早期に発見することができるようになりました。もし若いうちから自分や他人と比べて明らかに聴力が低下していると感じる場合は、このような遺伝的な要素を持っている可能性を考慮し、耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。
●加齢性難聴に気づくためのポイント
・テレビの音量が大きい
・外に出なくなり、ひきこもりがちになった
・電子機器、家電の音に気づかない
・聞き返すことが多くなった
・ものを置き忘れることが多くなった
(認知症のおそれがあるとともに、難聴もある可能性がある)
【加齢性難聴の進行を予防する生活習慣の改善】
加齢性難聴は年齢に起因することが直接的な原因ですが、その進行や悪化には他の要因も関与していることがあります。将来の加齢性難聴の進行を遅らせるためには、早いうちにこれらの要因を可能な限り取り除くことが重要です。
要因の中でも特に多いのは、騒音による「音響外傷」です。たとえば工事現場など騒音が多い環境で仕事をしている人は、難聴の発症リスクが高くなります。特に、職業柄、騒音に晒される機会が多い人は、必ず耳栓を使用するようにしましょう。また、家族が難聴でテレビの音量を常に大きくしていると、同居している他の家族にも早期に難聴が発生する可能性があります。近年では、イヤホンで大音量の音楽を聴くことが耳の内部を傷つける「イヤホン難聴」の増加が問題とされています。これらの環境要因が加齢に加わることで、難聴が早期に発症する可能性も考えられますので、注意が必要です。イヤホンを使用する際は、ノイズキャンセリング機能のあるものを使うと、音量を大きくしなくても聞こえやすくなります。
糖尿病は難聴のリスクを高めることが明らかになっています。糖尿病が存在すると、動脈硬化、血液の流れの障害、代謝の不調などによって神経の機能が低下します。聴覚に関係する神経も弱まるため、結果として難聴の発生率が高くなると考えられます。食事や運動に注意を払うことは、難聴の予防にも役立ちます。血液の流れを良くするためには、ウォーキングなどの有酸素運動がおすすめです。息を止めるような無酸素運動や浅い呼吸は血液の流れを悪化させます。ゆっくりと深く呼吸することを心がけましょう。
【補聴器つかって脳をトレーニング】
加齢性難聴は、耳と脳の老化が組み合わさって発症する疾患です。耳の老化によるものは、有毛細胞が一度破壊されると、現代の医療技術では再生することができないため、根本的な治療法は存在しません。したがって、対処法としては補聴器を使用して聴力を補完することが重要です。
従来は、難聴が進行してから、周囲の音や会話を聞き取るために補聴器を使用するのが一般的でした。しかし、最近では難聴と脳の機能が関連していることに注目し、脳の活性化を促進させるために、早期に補聴器を使用する時代になってきました。少しでも聞き取りにくさを感じたら、耳鼻咽喉科で相談することをおすすめします。補聴器は脳機能トレーニングのツールとして位置付けられるだけでなく、認知症予防にも繋がる可能性があります。食事や運動と同様に、補聴器を毎日継続的に使用することで健康を維持する習慣を身につけることが重要です。補聴器の装着時間やトレーニングの内容は、耳鼻咽喉科医の指示に従って適切に判断していく必要がありますが、通常は1日に90〜180分ほど装着し、音読や速読などを通じて脳のさまざまな機能をトレーニングします。
また、補聴器を装着して聞こえ方が少しでも改善されると、すぐに満足してしまいがちですが、実際にはその人の状態に合わせて細かい調整を行う必要があります。補聴器を作った後、耳鼻咽喉科で「補聴器適合検査」を受け、主治医の指示やデータを元に補聴器店でさらなる調整を受けることが大切です。
補聴器の音に慣れる過程で、言葉を使ってコミュニケーションを取ること自体が非常に重要です。家族や友人との会話や、積極的な外出や趣味の楽しむことは、老化の予防に直結します。家族や周囲の人は、「ゆっくりとはっきり話す」「顔を見て話す(できれば口元を見せる)」「ジェスチャーを交えて話す」などを意識し、円滑なコミュニケーションをサポートすることが望まれます。
高度な難聴(70デシベル以上)の場合、補聴器を使っても聞き取りが難しいことや、遺伝性の難聴が関与していることがあります。しかし、このような場合には人工聴覚器手術が適していることがあります。現在の医療技術の進歩により、手術は以前よりもより短時間で負担を少なくすることができます。近年では、ハイブリッド型人工内耳(補聴器と組み合わせた残存聴力活用型人工内耳)などの手術も、特定の条件を満たす場合には保険適用となるようになりました。今後は、人工聴覚器手術がより一般的になっていくことが予想されます。したがって、聞こえが悪くてもあきらめずに、専門医に相談してさらなる治療法がないかを探ってみましょう。