中高年の骨折が起こる原因として、一般的には「骨粗鬆症」という言葉が最初に思い浮かぶかもしれません。確かに、骨粗鬆症は骨折のリスクを高める要因の一つですが、直接的な原因として考えられるものがあります。それは「転倒」です。
転倒することで、筋肉が加える圧力や地面にぶつかる衝撃が骨に大きな力を加えます。転倒時に骨にかかる外力は、個々の状況によって変化します。例えば、転倒する方向や体格などに応じて異なります。たとえば、大腿骨と転倒の関係を考えると、後方に倒れると全体的な外力(筋肉の力や衝撃などの合計)が増加します。しかし、側方に倒れて太ももや腰などが直接地面にぶつかると、衝撃が非常に強くなります。さらに、転倒時に体がひねられると、骨にかかる外力はより複雑になります。この外部からの力が骨の強度を超えると、太い骨であっても簡単に折れてしまう可能性があります。そのため、転倒を予防することが、初めの骨折だけでなく、それに続く連鎖的な骨折(ドミノ骨折)を防ぐために重要だと言われています。
最近注目されている概念の一つに、転倒との関係が深く関連している「運動器不安定症」があります。運動器とは、人が日常的な活動を行う際に必要な骨、関節、筋肉、腱、神経などの総称です。この運動器の一部に何らかの障害があると、姿勢や歩行が不安定になりがちな状態を指します。たとえば、骨の密度が正常であっても、筋力や神経機能が弱まると、バランスを崩して転倒しやすくなります。
運動器の機能は、加齢とともにゆっくりと低下するため、自己認識が難しい側面があります。つまり、人は運動器不安定症に気付きにくいのです。そのため、転倒や骨折を経験するまで、この症状が明らかになるケースも珍しくありません。
そこで、近年、自身の運動器の状態を把握するためのガイドラインとして推奨されているのが、「開眼片足立ちテスト」です。このテストは、目を開いた状態で片足立ちをし、15秒以上維持できない場合は、筋力やバランス感覚の低下が疑われ、転倒や骨折のリスクが高まる可能性があります。このテストは自宅でも実施できますが、高齢者の場合はバランスを崩す危険があるため、手すりのある場所などで行うことが望ましいです。
さらに、運動器の衰えが進行している可能性があるケースには、次のようなサインが現れることがあります。
・椅子から立ち上がる際に、机などの支えがないと安定感を得られず、よろけることがある。
・階段を急いで下りるときに、不安を感じて足がもつれることがある。
・小さな段差や平坦な地形でつまずいてしまうことがある。
・歩く速度が以前よりも遅くなったか、足取りが不安定になってきた。