高齢者は、加齢に伴う体の変化と生活習慣の両面から、脱水状態に陥りやすい傾向があります。
生理学的な要因としては、体内の総水分量が減少するほか、腎機能の低下、口渇中枢機能の低下が挙げられます。これらの変化により、若い頃と同じように水分を摂取していても、体内の水分バランスが崩れやすくなります。
また、生活習慣も脱水の原因となります。例えば、頻尿や尿失禁への懸念から、意識的に水分摂取量を控える方がいます。食欲の低下により、食事から得られる水分が少なくなることもあります。さらに、高齢になると体内の水分量減少に気づきにくくなるため、自分で水分摂取をコントロールすることが難しくなります。
特に注意が必要なのが「かくれ脱水」です。これは、自覚症状がないにもかかわらず、体は脱水状態になっていることを指します。健康な70歳以上の高齢者のうち、3割がかくれ脱水だったという研究データもあり、高齢者の「かくれ脱水」のリスクは非常に高いと言えます。介護施設に入居している高齢者よりも、自宅で生活している健康な高齢者の方が脱水症のリスクが高いという報告もあります。
高齢者の中には、「水をたくさん飲むと膀胱炎になりやすい」「熱が出やすい」といった誤った認識を持っている方もいます。このような誤解は、適切な水分摂取を妨げる要因となるため、脱水予防に関する正しい知識の普及や教育的な支援がますます重要になっています。
高齢者の脱水は、重症化すると命に関わることもあるため、早期発見と適切な対応が不可欠です。日頃から高齢者の水分摂取状況に注意を払い、もし気になる点があれば、かかりつけ医や専門家に相談することをおすすめします。