私たちの血管には、まるで壁のような「血管壁」があり、特に動脈と静脈は、内膜、中膜、外膜という三つの層でしっかりと作られています。一方、非常に細い毛細血管は、血管内皮細胞という一層の薄い細胞でできており、その細胞同士のわずかな隙間を、壁細胞(ペリサイト、周皮細胞とも呼ばれます)がまるで覆うように取り囲んでいます。
この特別な構造のおかげで、毛細血管は内皮細胞の小さな隙間から、血液の液体成分をスムーズに運び出し、全身にいるおよそ37兆個もの細胞一つひとつに、生命維持に必要な酸素や栄養を届けることができるのです。同時に、不要になった二酸化炭素や老廃物は、血液が血管の外に漏れることなく、しっかりと回収されます。
しかし、残念ながら、年齢を重ねるとともに毛細血管の壁細胞は変性したり、数が減ってしまったりします。それに伴い、血管内皮細胞の働きも低下してしまうのです。これは、他の細胞と同じように、老化によって細胞の分裂する力が弱まり、古くなった細胞が新しい細胞に入れ替わる「ターンオーバー」の能力が衰えるためです。
さらに、血管内皮細胞同士をしっかりと接着させたり、内皮細胞と壁細胞がくっつくのを助けたりする「Tie2(タイツー)」という分子を活性化させる、アンジオポエチン1というタンパク質の分泌も減ってしまいます。その結果、細胞と細胞の間の隙間が広がり、血液が血管から必要以上に漏れ出しやすくなってしまうのです。
加えて、栄養バランスの偏った食事や運動不足といった、健康に良くない生活習慣も、血管にダメージを与える大きな原因となります。特に注意したいのが、糖分の摂り過ぎなどによる高血糖の状態です。血液中の余分な糖とタンパク質が結びつくと、「糖化」と呼ばれる変化が起こり、糖がこびりついて本来の機能を失ったタンパク質、AGE(終末糖化産物)という物質が生まれます。
血糖値が高い状態が長く続くと、毛細血管の内皮細胞にある受容体が、このAGEを取り込むようになります。すると、細胞を傷つける活性酸素が大量に発生し、最初に壁細胞を攻撃してダメージを与えます。壁細胞が傷つくと、それを失った血管内皮細胞の間に隙間ができ、そこから血液が組織の中に漏れ出してしまいます。その結果、細胞に酸素や栄養が効率よく届けられなくなるだけでなく、二酸化炭素や老廃物の回収も滞り、組織の中にどんどん蓄積されてしまうことになるのです。