通常、私たちは何らかの症状が出てから病院に行きます。これは病気の治療になります。近年、注目されている医療のひとつが予防医療です。予防医療の役割と予防医療の必要性についてです。
【予防医療とは】
予防医療とは
・肺炎など、危険な感染症を予防する
・病気の重症化や再発を予防する
・病気にならないように健康な状態をできるだけ長く保つ
ための医療です。医療が、注目されるようになったのは、日本の超高齢社会のが問題となっているからです。超高齢社会では健康寿命を伸ばすという取り組みがとても大切なのです。高齢者になっても、変わらず活き活きと元気で過ごすためには、長生きだけでなく、慢性的な病気、つまり生活習慣病をはじめとした長期にわたる病気にかからないような対策が必要だからです。そこで、QOL(生活の質)を高め、健康寿命を伸ばす医療である予防医療の考え方が注目されるようになってきました。
【予防医療の3ステップ】
予防医療には、一次予防・二次予防・三次予防の3つの段階があります。
・一次予防
がんや高血圧、糖尿病などに罹らないように、バランスの良い食生活、適度な運動などを心がけて健康な状態を保ち、予防接種などで危険な病気にかからないようにする
・二次予防
定期健診や人間ドックなどで、がんや糖尿病、高血圧などの病気やリスクを早めに発見し、早期治療に取り組む
・三次予防
専門的な治療で病気の進行や症状を抑え、リハビリで回復や再発防止を促し、QOLの維持をはかる
【健康寿命を伸ばすには「一次予防」がキモ】
長く健康で過ごしていくために、病気になる前や健康リスクが高くなる前に予防する「一次予防」が重要になってきます。従来の予防医療は、がんや生活習慣病、それらのリスク要因の早期発見と早期治療が目的である「二次予防」が主流でしたが、現在はこれを「一次予防」に引き上げていこうという考え方が主流となってきています。
一次予防は、特定の年代や病気を持つ人だけでなく、健康な人にとってもメリットがある予防医療なのです。いつまでも元気に生活できるようにするためにも、定期検診や人間ドックを受けるだけでなく、病気になる前の段階から生活習慣を見直すようにしたいものです。
予防医療で、個人も社会も元気になろう。
予防医療は、個人の生活の質(QOL)を高めるだけでなく、元気に活躍できる人を増やして社会全体を活性化することに繋がります。自分自身のためにも社会のためにも、これからは一次予防を大切に考え、健康的な生活を過ごすように心がけていきましょう。
【超高齢社会の到来】
2016年、総務省統計局 人口推計によると、日本の総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は27.4%、国民の4人に1人が高齢者となっています。一般に、高齢者人口が7~14%の社会を「高齢化社会」、14~21%の社会を「高齢社会」、そして21%を超えると「超高齢社会」と呼びますが、日本は世界で最初に超高齢社会を迎えた国となりました。
加齢とともに健康に問題を抱える人が増え、病気やけがなどでなんらかの自覚症状のある人の割合(有訴者率)は、65歳以上の男性41.8%、女性46.9%です。加齢に伴う医療ニーズの増大は国民医療費に影響を及ぼし、65歳以上の高齢者で23兆9,000億円余りと、国民医療費の半分以上(58.6%)を占めています。
1965年当時の日本は、高齢者(65歳以上)1人を9.1人の現役世代(20~64歳)が支える胴上げ型社会でした。2012年には高齢者1人を2.4人で支える騎馬戦型社会、今後の高齢化のさらなる進行により、2050年には高齢者1人をほぼ1人の現役世代が支える肩車型社会を迎えると予測されています。
OECD(経済協力開発機構)などの労働力調査によると、日本の高齢者の労働力率(生産年齢人口に占める労働力人口の比率)は、欧米にくらべ高い水準にあります。ボランティア活動なども含め、高齢者、特に女性も積極的に社会参加を行い、生涯現役の高齢者が増えることがこれからの日本社会の必要条件になりつつあるようです。
【感染症から慢性疾患】
1950年当時の日本人の死因は多い方から結核、脳卒中、肺炎の順でしたが、ライフスタイルの欧米化に伴って循環器疾患・がん・慢性呼吸器疾患・糖尿病などの非感染性疾患が増加し、現在はがん、心臓病、肺炎の順となっています。
感染症の予防には、感染源、感染経路、感受性者(免疫がなく感染しやすい人)への対策が必要です。個人の努力のみならず、上下水道の整備、消毒、検疫、患者の隔離、予防接種等の社会環境の整備が不可欠。これに対し、慢性疾患の多くは個人の生活習慣が大きく関わっているため、生活習慣の改善によってかなり予防することができます。
WHO(世界保健機関)がまとめた統計によると、低所得国では肺炎などの呼吸器感染症、下痢性疾患、エイズ、結核、マラリア等の感染症が死因の上位を占めています。低所得国に比べて高所得国での死因の上位は心臓病、脳卒中、認知症、がんなどの非感染性疾患が占め、感染症では唯一、呼吸器感染症が上位です。