高血圧を持つ人々は、現在約1010万8000人であり、その数は増加傾向にあると推測されています。高血圧は、心疾患や脳血管疾患の主要な原因の1つであり、日本人の死因上位に位置しているため、非常に注意が必要な病気です。
冬になると、風邪やインフルエンザ、ノロウイルスなどの感染症予防のために、手洗いやうがいなどに気を配ることが一般的ですが、中年以降の人々は感染症だけでなく高血圧にも注意が必要です。なぜなら、冬には朝に血圧が上昇する「モーニングサージ」と呼ばれる現象が起こり、それによって心筋梗塞や脳卒中などの脳心血管疾病のリスクが高まるからです。モーニングサージは、血圧が特定のタイミングで急激に変動する現象であり、テレビ番組で一度注目されたこともあります。この現象は、高血圧の人だけでなく、正常な血圧を持つ人々にも起こる可能性があるため、注意が必要です。医療機関や健康診断において血圧を測定する際にも特に留意する必要があります。
【血圧が正常な人でも気をつけたい】
血圧が上昇する時期は、様々な要因によって引き起こされますが、特に冬には「モーニングサージ」と呼ばれるものに気をつける必要があります。健康な人の場合、血圧は日中にゆっくりと変動し、朝には高くなり、夜には低くなりますが、モーニングサージとは、朝起きる前後に血圧が急激に上昇する現象のことを指します。
ある日本人約2万1千人を対象とした研究によれば、脳卒中や心筋梗塞などのリスクは、血圧が日中(医療機関での測定時)に高い人と比較して1.46倍上昇し、しかしこのリスクは、日中は正常なのに朝だけ血圧が高い人では2.47倍にも上昇することが分かりました。つまり、病院や健康診断で血圧が正常であっても、朝だけ血圧が高い場合には、命に関わる病気のリスクが高まるということです。
モーニングサージは、病院や健康診断では見逃されがちです。そのため、自身のモーニングサージを知るためには、朝の血圧を測定することが非常に重要です。
【朝の寒暖差とストレスがカギ】
体温調節のための血圧変動は、体が寒暖差やストレスを感じた時にも発生することがあります。具体的には、温かい場所から急に冷たい場所に移動すると、毛細血管が収縮し、血圧が上昇することがあります。冬の朝、外に出る際には厚着をして体を冷やさないように心掛けましょう。「わずかな時間だから大丈夫」と油断せず、薄着でゴミを捨てに行ったり、新聞を取りに外に出たりすることは避けましょう。
また、朝風呂に入る場合は、脱衣所を十分に温めておくことが重要です。寒い脱衣所で服を脱ぐだけでも血圧が上昇しますが、更に熱いお湯に入ると一時的に血圧が上昇します。ですので、脱衣所はヒーターや暖房器具を使用して温めておき、血圧上昇を防ぐために水温が適度なお風呂に入ることがおすすめです。
寒い場所に出る前やお風呂に入る前には、手足を動かす、その場で足踏みをするなど軽い運動を行うこともお勧めです。朝、布団の中で手足をバタバタさせることで体を温め、対策をするのも有効です。
また、血圧はストレスを感じた時にも上昇します。例えば、車の運転は人にとってストレスの1つとされています。朝起きてすぐに運転する場合は、余裕を持って家を出るようにし、車内を温めてから運転することが良いでしょう。
【血圧を測る習慣を】
モーニングサージを理解するために、自宅で血圧を測る習慣を身につけることをおすすめします。毎日測定するのが最も望ましいですが、忙しい人でも週に数回の測定でも十分です。
血圧を測る時のタイミングは朝と夜の2回あります。朝は、起床してから1時間以内、食事の前、トイレを済ませた後に測るのが良いです。夜は入浴後や飲酒直後は避けて測定します。
測定する時は、テーブルの前で椅子に座り、血圧計のベルトを心臓の高さに巻きます。薄手のシャツ程度であれば問題ありませんが、できるだけ腕に直接ベルトを巻くようにしましょう。測定中は話すことを避け、背筋をまっすぐにして力を抜いてください。運動直後や足を組んだり、横になったり、寒さで震えながら測定すると正確な結果が得られません。
血圧は2回測定し、記録しておくことをおすすめします。高血圧の基準は医療機関や健康診断で測定する場合は、上(収縮期血圧)が140mmHg、下(拡張期血圧)が90mmHg以上とされていますが、自宅で測定する場合は、上が135mmHg、下85mmHg以上を基準にしてください。
高血圧は「サイレントキラー」として知られており、進行していくにつれて自覚症状がほとんどない状態で進んでしまいます。先ほど紹介した研究では、日中の収縮時血圧が150mmHg以上のグループにおいて、朝の血圧が高い人は脳心血管疾患のリスクが3.92倍も高いというハイリスクな結果が見つかりました。とりわけミドル世代に差し掛かった方々には、日常的に血圧を測定する習慣を身に付けることをおすすめします。