「腰痛」は病名ではなく、体に感じられる症状の名前。腰に原因がある場合の他、生活習慣や、仕事、ストレスなど、要因が複雑に絡んでいます。厚生労働省 平成28年国民生活基礎調査において、病気やけがによる自覚症状の調査では男性1位、女性の2位が腰痛です。今回は、非特異的腰痛、原因を特定できない腰痛です。
腰痛の約85%は原因不明
腰痛の約85%は、痺れや麻痺などの神経症状や、重い基礎疾患などがなく、エックス線やMRIなどの画像検査をしても、痛みの原因がどこなのか特定しきれない「非特異的腰痛」です。腰痛症と呼ばれる疾患はこれです。長い時間、中腰や猫背などの姿勢を続け、腰や背中の筋肉が緊張しっぱなしになったときや、運動不足で腰を支える筋力が低下しているときなどに起こります。寒さで筋肉が硬くなる冬も、神経が刺激されて痛みが起こりやすくなります。セルフケアをしていれば短期間で軽くなりますが、休養が十分とれてなかったり、ストレスなどの心理的要因があると長期化することもあります。
急性の腰痛である、ぎっくり腰も非特異的腰痛に含まれます。急に無理な動作をしたときなどに起こる腰の組織のケガで、ねんざや、椎間板、腱、靭帯などの損傷が多いと考えられていますが、厳密にどの部分が傷んでいるのかを断定するのは難しいためです。
筋疲労を招く労働環境や生活習慣
職場環境によって腰痛を発症してしまう人は非常に多く、労働災害全体の6割以上を占めています。体に負荷のかかる重労働や、重量物を持ち上げる作業や体幹を曲げたりひねったりする作業には気をつける必要があり、介護や看護の職場で多いとされています。
逆に同じ姿勢をとり続けるような職場でも多くみられ、デスクワークをしている人や長距離輸送のドライバーにも腰痛は多数発生します。これは股関節やその周辺の筋肉の柔軟性が失われてしまうことにも一因があると考えられています。職場でのメンタルヘルスとの関連も指摘されていて、仕事に対する満足度や人間関係なども腰痛の発症や長期化と関連があるため、ストレスを溜めない環境作りも大切です。また、生活習慣の中でも特に「運動不足」と「喫煙」は腰痛と関連していることがわかっています。
女性特有の腰痛
妊娠や生理などの、女性特有の原因で起こる腰痛もあります。生理痛が強いと下腹部痛だけでなく腰痛を伴うことがあるのです。妊娠中は大きくなったおなかを支えるために体の重心が変わり、上体を反らせる姿勢になることが多いため、腰痛が起こりやすくなります。子宮が大きくなり、骨盤の周りの筋肉が引っ張られることも、腰痛の原因になることがあります。産後も授乳や夜泣きの対応などの育児、家事に追われると、身体的・精神的な負担から腰痛が慢性化することもあります。また、更年期になると体内のホルモンバランスが変わり腰痛が起こりやすくなることがあります。
腰痛が起こるのは
四本の足で歩く動物と違い、直立での二足歩行をするように進化したヒトでは、背骨に垂直方向の力が強くかかります。中でも腰には大きな力がかかるため、腰痛は人間特有の症状なのです。垂直方向の力を分散するために、ヒトの背骨はゆるやかなS字カーブを描いています。また、腹圧(腹腔内の圧力)が腰椎(腰の部分の背骨)を支えています。また、背骨と背骨の間のクッションとなる椎間板や腰を支える筋肉が、姿勢を支持しています。このような姿勢を保つメカニズムが疲労したりダメージを受けたりすると、腰痛を発症します。
鍼灸の治療例(当院の場合)
どんなとき(立っている、座っている、動いている、寝ているなど)に、どんな動作をするとどこが痛むか、逆にどんな姿勢や動作をすると痛みが軽減するか、実際に動ける場合はぎりぎりまで動かして症状を把握します。その状況から、原因となる場所がどこであるか、つまりツボを推測していきます。痛みと同じ場所であることもあります。その場所に軽い圧を加え、痛みが軽減するようであれば、鍼や灸、指圧をしていきます。腰の痛みの場合は、お尻や足に鍼をすることがよくあります。同じような訴えであっても、使うツボは人それぞれです。
酷い腰痛や夜間の痛みが長く続いている場合、治療を行っても全く改善のきざしが見えない場合などは、クリニック受診をおすすめしています。