睡眠のチェック
〔睡眠の量や質〕
・なかなか寝付けない
・夜中に何度も目が覚める
・朝早く目が覚める
・しっかり眠っているはずなのに眠い
〔リズムまたはタイミング〕
・深夜になっても眠くならず昼近くまで起きられない
・夕方から眠り夜中に起きたり、寝る時間が遅くなったりしてしまう
・休日は寝だめするようにしている
〔睡眠中の異常な症状〕
・家族にいびきがうるさいと指摘される
・大きいいびきをかいて息が止まることがある
・寝ているときに脚がむずむずする
コロナ禍に、日本人は夜型化に移行
新型コロナウイルス感染症の拡大によって睡眠に新たな問題が生まれています。コロナ禍において、日本人は夜型化に移行しつつあるようです。
「自然災害などのいわゆるクライシス(危機状況)が起こったときには、ストレスなどから睡眠障害に悩む人が増えることが知られています。新型コロナウイルス感染症のまん延も危機という意味では同じですが、ストレスのかかり方が違います。強いストレスが短期間にかかるのではなく、緩いストレスが長期間かかり続けるのです。感染への不安はもちろんのこと、雇用不安、経済不安などがボディーブローのように効いてきます。さらに、ライフスタイルの変化による”夜型化”も睡眠を乱す大きな要因です。ステイホームによるオンライン授業やリモートワークによって生活が不規則になり、就寝時間・起床時間が後ろにずれる人が増えました。夜遅くまでスマートフォンやパソコンの画面を見てブルーライトを浴びることも、睡眠のリズムを乱す要因です」青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長の中村真樹先生。
※中村真樹先生:コロナ禍の睡眠を調査する世界的研究チーム、国際COVID-19睡眠研究(ICOSS)のメンバー
この夜型化によって起こる睡眠障害を「概日リズム睡眠障害」と呼びます。
「体内時計のリセットに重要なのが、目から入る光に制御されているメラトニンというホルモンです。メラトニンは朝、目に光が入ると分泌にリセットがかかり、その約14時間後から再び分泌が始まり、夜の自然な眠気を誘います。しかし、夜間にブルーライトを浴びると、メラトニンの分泌が抑えられてしまうのです。その結果睡眠リズムが後退し、朝起きる時間にはまだ体内時計は睡眠モードということに。そこで無理やり起きると、体や脳は眠ったままなので、自律神経のバランスが崩れ、頭痛や耳鳴り、めまい、下痢、倦怠感などの体の不調や、イライラ、集中力や意欲の低下、抑うつ感が起こりやすくなります」(中村先生)。
このようなリズムの乱れによる睡眠障害によって「学校や仕事のリモート状態が解除され、いざ登校、出社できるようになっても睡眠リズムが崩れてしまっているために朝起きられない、という患者さんが増える傾向にあります」(井上先生)。
睡眠不足(寝不足)は免疫にも悪影響をもたらす
睡眠不足は免疫力にも影響を及ぼします。風邪をこじらせてしまい、肺炎になってしまうリスクは、睡眠時間が5時間未満の人は8時間睡眠の人に比べて1.4倍という報告がなされています。また、睡眠時間が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクにも影響する、という研究も。欧米6カ国の医療従事者2,884人を対象にした調査では、夜間の睡眠時間が1時間長い人では、COVID-19に感染するリスクが12%低く抑えられ、また、睡眠障害のチェックリストに3項目当てはまる人は、該当項目なしの人よりも感染危険度が88%高かった、と報告されました。
いびきをかき、睡眠中に何度も呼吸が止まる睡眠障害のひとつ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の持病がある人は、新型コロナウイルスワクチンの優先接種対象となりました。SASではCOVID-19感染リスクが約8倍高く、重症化(呼吸不全の発症)リスクが2倍になる、という調査報告もあります。「SASでは血液中の酸素量が低下する『低酸素血症』を毎晩・長期間繰り返すため、身体に慢性的な炎症が起こりやすくなることが重症化につながる原因と考えられます」(井上先生)。
また、睡眠の問題はワクチンの効力にも影響を及ぼしているようです。インフルエンザワクチン接種後の抗体産生量を比較した研究では、睡眠時間が4時間の人は、8時間の人に比べて作られた抗体量が半分以下だった、という報告もあります。「睡眠は全身のメンテナンスの時間です。睡眠時には、免疫機能を高めるいくつかのサイトカインの分泌が促進されます。また、風邪を引いたときや病気に罹ったときにもこれらのサイトカインが分泌されることで眠気がもたらされます。その理由は睡眠によって病気の回復を早めるためなのです」(中村先生)。
病原体から身を守るためにも、睡眠はおろそかにできないのです。