スローフードと聞くと、ファストフードの反対であると考えている方もたくさんいらっしゃいます。お店のカウンターで注文すると、すぐ出てくる食事。それを大急ぎで食べ、あたふたと時間に追われる。この様な経験をしたことがあるのではないでしょうか。スローフードは、このファストフードとは反対の「食事作りに手間暇をかけて、よく噛んでゆっくり食べる」という意味だけではないのです。
【スローフードの発祥】
スローフードは1986年、北イタリア、ブラという街で、カルロ・ペトリーニが始めたある種のムーブメント、運動です。食における喜びと、知識を結んで、幸せな未来を築くことを目的としています。地域の郷土料理が消滅し、人々の食品に対する興味の減退を心配し、人間の食べ物の選択がどのように世界に影響するかを、もう一度、ふりかえって考えてみようという主旨があります。ペトリーニが提唱したスローフードは、以下のように表すことができます。
Slow food =Good(おいしい)+Clean(きれい)+Fair(ただしい)
地域の中で守られてきた、美味しい郷土料理を伝え、食事を通して環境を守る意識を持ち、生産者に正しい評価をすることが、スローフードなのです。
【スローフードの歩み】
スローフードは、食とそれを取り巻くシステムを、もっとより良いものにするための、世界的な草の根運動です。郷土に根付いた農産物や文化を失うことや、ファストライフ、ファストフードの台頭、食への関心の薄れを憂い、1989 年にイタリアで始まりました。すでに160カ国以上に広まっており、国際組織でもあるのです。「おいしい、きれい、ただしい(Good, Clean, Fair)食べ物をすべての人が享受できるように」を掲げに、食を中心においた様々なプロジェクトを数多く持ち、活動しています。スローフード日本は、スローフード国際本部から、正式な承認を受けた国内運営機関として2016年3月に発足しました。日本各地に草の根活動をする支部を持ち、団体の国際化・活性化を、産官学民連携しながら行っています。
【スローフードのスローガン】
GOOD(おいしい)・・・美味しく、風味があり、新鮮で、感覚を 刺激し、満足させること
CLEAN(きれい)・・・地球資源、生態系、環境に負担をかけず、 また、人間の健康を損なわずに生産されること
FAIR(ただしい)・・・生産から販売及び消費にわたって、全ての 関係者が適正な報酬や労働条件にある、 社会的公正を尊重すること
現在の食をとりまく環境は、私たちが日々、口にしているものの選択一つ一つによって作り上げられています。 この環境を、より良いものにしていくためには、一人一人 の意識と文化、政治、農業、環境、経済など、様々な分野の垣根を超えて取り組まなければならないもの。スローフードは、数々のプロジェクトによって、この複雑なテーマを紐解いていく運動をしています。
スローフードは、おいしく健康的で(GOOD)、環境に負荷を与えず(CLEAN)、生産者が正当に評価される(FAIR)食文化を目指す社会運動なのです。 食べることは、私たちの生命に直接的に関わっており、人間の歴史を築いてきました。あらゆる地域の伝統・叡智・喜びなどが込められているのです。料理を味わって楽しみながら、料理の皿の外にある、見えない味付けを考えるのが、スローフードの運動なのです。 地球や社会の環境が大きく変わろうとしている今、様々な分野や世代を越え、多様性に満ちた持続可能な暮らしを考えていかなければなりません。
【日本のスローフードの考え方】
2013年、伝統的な日本の食、いわゆる和食、日本食とは、大豆製品、魚介類、野菜を含む主食、主菜、副菜を組み合わせた食事、がユネスコ無形文化遺産に登録されました。それ以降、日本の食文化の注目度は、国際的に加速しています。
日本食は、自然尊重という日本人の精神を体現、食に関する社会的慣習として提案されました。新鮮で多様な食材、持ち味の尊重、栄養のバランスに優れた健康的な食生活、自然の美しさや季節の移ろいの表現、正月行事など年中行事との密接なかかわり、これらが日本食文化の特徴でもあります。生活の中で見直してみると、新たな発見に驚かされます
日本食は、医学的な視点からも、死亡率の低下や、がんの予防、循環器疾患死亡リスクの低下、うつ病発症リスクの低下、要介護認定の発生低下など、健康との関連が解明されつつあります。
このように日本食の文化的、科学的意義を再認識し、日本食の良さを次世代に継いでいくことこそ、日本におけるスローフードの大切な意味なのです。食の大切さをあらためて知り、郷土料理を受け継ぎ、食の生産者と消費者の理想的な姿を追求し、地産地消の促進、環境保護に目を向け、スローフードを実践していきましょう。