【ポリファーマシーとは】
高齢になると、内科で血圧の薬、整形外科で痛み止めの薬、眼科で白内障の薬……など、複数の病気のそれぞれの薬を処方され、結果として薬の種類が増えてしまうことがあります。このような多剤併用の結果、薬を飲み忘れたり、飲む量や飲む時間を間違える、ふらつきや胃腸障害等の不快な症状が出るなど、患者にとって好ましくない影響が出た場合を「ポリファーマシー」といいます。「ポリ」は「たくさん」、「ファーマシー」は「薬の使用」という意味です。
厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」によると、何種類から、ポリファーマシーというかの厳密な定義はありません。患者の病態や生活、環境によって異なります。ただし一般に、薬との因果関係が不明も含めて、薬を投与された患者に生じるすべての好ましくない、あるいは意図しない症状等、つまり薬の有害事象は、薬の数が増えれば増えるほど多くなることが知られています。6種類以上では1~3種類に比べて増加したというデータもあります。
厚生労働省「平成29年社会医療診療行為別統計の概況」によると、全国の薬局の調査では、65~74歳の30%、75歳以上の40%が5種類以上、75歳以上の25%が7種類以上の薬を調剤されています。特に高齢者は、代謝に関わる肝臓や、排泄に関わる腎臓の機能が低下していることもあり、ますますポリファーマシーに陥りやすいのです。現在、日本では高齢者の約半数がポリファーマシーだといわれています。
【ポリファーマシーが起こる原因】
ポリファーマシーは特に高齢者に多くみられる問題ですが、大きな理由として、高齢化が進み、複数の慢性疾患を抱える高齢者が増えたことだといわれています。
高齢になると生活習慣病などの慢性疾患を患う人が増えていきます。加齢による不調や病気は、治りにくいので薬を飲み続けることになりますし、高齢になればなるほど不調や疾患が増えていき、病気の数だけ薬の種類が増えていってしまうのです。
病気ごとに別の病院に通ってそれぞれで薬を処方されると、医師が薬の数や内容を把握管理できない可能性も考えられます。
さらに、薬による副作用を抑えるため新たな薬の処方の繰り返しで薬の種類が増えてしまう「処方カスケード」もポリファーマシーにつながってしまいます。
【ポリファーマシーの問題点】
ポリファーマシーの問題点は、大きく、患者本人の悪影響、国民医療費の増大の2点です。
【健康への悪影響とQOLの低下】
どの薬でも副作用が起こる可能性はありますが、服用する薬の種類が増えれば量や飲み合わせによって、重大な有害事象が発生するリスクが高くなります。
ポリファーマシーによる有害事象は、軽いめまいやふらつきから、肝機能障害、低血糖までとさまざまで、重篤なものだと死亡につながってしまいます。
複数の薬を併用していると、飲み忘れや飲み間違いも起きやすくなり、健康被害にもつながります。
【国民医療費の増大】
厚生労働省による「令和3年度 医療費の動向」によると、2021年の令和3年度の調剤医療費は7.8兆円、医療費全体の17.5%を占めています。
過去の動向では、10年前の平成23年(2011年)度は6.6兆円(全体の17.4%)、20年前の平成12年(2001年)度は3.3兆円(全体の10.7%)となっており、この20年で調剤医療費は倍以上となり、医療費全体の中で占める割合も増加しています。
【ポリファーマシーの予防・対策】
ポリファーマシーを防ぐための重要点は、服用しているすべての薬を把握し、正しく服用管理することです。
複数の病院にかかっている場合は、かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師をつくることで、調剤や服薬管理を集約、服薬情報の適切な把握・管理を行っていくことができるでしょう。
かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師が服薬状況の把握することにより、ご家族をはじめ、介護施設、医療機関などの関係する場所とも情報を共有し、服薬のサポートや多剤・重複服薬を見直すといった処方の適正化も行います。
多剤処方を避けるための方法としては、下記が推奨されており、必要に応じて減薬の提案なども行います。
・予防薬のエビデンス
・対症療法は有効か
・薬物療法以外の手段
・優先順位
かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師は、服薬情報の一元管理を担うことを期待されています。かかりつけ薬局を作るのが難しい場合は、お薬手帳を活用するのも方法のひとつです。
ポリファーマシーを避けるため、自分が飲んでいる薬をしっかり把握しましょう。複数の医療機関にかかっている場合でも、おくすり手帳は1冊にまとめ、市販の医薬品やサプリメントなども同じ手帳に記入しておきます。さらに、薬を飲んだ後に体調の変化を感じたら、記入しておくのもお勧めです。自己判断で服薬をやめるのは避け、医師や薬剤師に相談しましょう。