【もしも「死にたい」と言われたら】
衝撃的なテーマの講演とシンポジウムに参加したのは、今、こどもたちのまわりで何が起こっているのか、コロナ禍以降、不安定さを前面に出しているおとなの影で、こどもたちの不安定なこころとからだの状態や、とりまく環境が目に入っていないのではないか、というどんよりとして不安感からでした。500人超のホール満員の参加者。その定員を大きく超える申込者。参加者の半分以上は、小中高の現役の先生と聞いて、この問題に悩み、混乱している教育現場に思いをはせました。
【思春期の自殺予防のためにできること】
基調講演は、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生。依存症や精神神経学のスペシャリストで、自殺予防にも取り組んでいらっしゃいます。従来、自殺予防というと、「してはいけない」「なぜ、自殺しようとするのか」など、予防者側が諭す、正す的な「指導」が長く続いていました。松本先生は、自殺をしたいと考えるほど追い詰められている人たちに、頭から諭しても何の解決策にもならないことを指摘されています。それで、自殺が減っているのかと。
講演は、増加し続ける子どもたちの自殺についての統計から始まりました。コロナ禍の2020年は、高校生女子が前年比2倍だったそうです。そのひとつの要因としてあげられたのが、ドラッグストアや薬局で、病院の処方箋なしで手軽に買うことのできる、OTC薬。オーバー・ザ・カウンターの略で市販薬とも称されるお薬。このOTC薬の過剰服用(オーバー・ドーズ ODと書かれることも多い)が、自殺願望に駆り立てていく布石となっているようなのです。
風邪薬や鎮痛剤などのOTC薬を飲むと、不安感を抑えたり、鎮静効果を感じたりするので、最初は、すすめられて手軽に服用していたのが、次第に依存するようになっていきます。OTC薬には、医療用として使われる処方薬には含まれていない古い成分や、依存のある成分も含まれており、知らず知らずのうちに心や体をむしばんでいくことも十分考えられるのです。
OTC薬の過剰服用とともに、不安感やつらい感情を消す為にしてしまうのが、リストカットなどの自傷行為。こちらも、決して死にたいからしているわけではなく、自傷行為をすることによって得られる不安感、絶望感の解消を求めてSOSを出しているのです。OTC薬の過剰服用も自傷行為も、積み重なっていくと、自殺願望が増強されることになってしまいます。
そんな子どもたちのSOS先、相談先は、家族でも教師でもなく圧倒的に友人。つらい気持ちに寄り添ってくれる人を求めるからです。
【気づき、かかわり、つなぐ】
私たちは、SOSに気づき、寄り添うことでかかわっていく。そして叱責したり禁止することなく、その状態をつないでいくことが求められているのです。
めまぐるしく変わる世の中、知らないことだらけです。ほんのささいなきっかけが、気づきに結びつきます。アンテナを張り巡らせ疲れてしまっては元も子もないですが、小さな気づきに気づいていけるようにしていきたいと思います。基調講演はそんな気づきを得られた機会でした。